イントロ




注:ここで使っている記号は場の量子論での定義とほとんど一緒ですので、記号については場の量子論のコーナの「いろいろな関係」を見てください

有限温度の場の理論は、場の理論を使った統計力学です(正確には粒子数も含めるので有限温度・密度の場の理論です)。使用分野は、物性、原子核、素粒子、宇宙論なんかです。ここでは、相対論的な場合を扱うので、原子核、素粒子、宇宙論で使用されるものがメインになっています。
個人的な見解ですが、有限温度の場の理論と言ったときは相対論的な「統計力学+場の理論」を指しているようです。有限温度の場の理論で使われる方法は非相対論的な「統計力学+場の理論」でも標準的に使われるものなんですが、それに有限温度の場の理論という言葉はあまり使われていません(ようは物性の分野)。
話はそれますが、さらにもう一つ「統計力学+場の理論」に対応するものがあって、本で言えば、Giorgio Parisi著「Statistical Field Theory」(青木薫、青山秀明訳「場の理論-統計論的アプローチ-」)です。これは格子上での統計力学のことを指していて、イジングモデルなんかで使われる方法です。格子上といっていることから分かるように、この分野は格子場の理論のことなので、ここで扱うものとは異なっています。


なんでこんなものを作ったのかという理由は簡単です。多体系を扱うには量子力学を使うより場の理論の考えを使った方が便利ですし、相対論的な粒子を扱うのに必要だからです。そして、名前に有限温度というのがついているのは、統計力学をやった人なら分かると思いますが、確率分布は温度を含めて構成されているために、通常の場の理論にはなかった温度効果が加わるからです。極端な例ですが、初期宇宙における高温状態で実現していたと考えられているクォーク・グルーオンプラズマなんかを扱うための理論にもなっています。特にクォーク・グルーオンプラズマは弱結合状態で実現していると考えられていたんですが、最近のRHICの実験では強結合としての結果が出てきたために、いろいろと問題になっている領域です。


場の量子論を使った統計力学を構成するのに都合のいいこととして、統計力学には粒子数を含めた理論が出来上がっていることです。つまり、相対論的場の量子論の特徴の1つである粒子の生成・消滅という現象を扱うための準備がすでに存在しています。

具体的な理論の構成方法は、上の話からなんとなく予想できると思いますが、基本的にはカノニカルアンサンブル、もしくはグランドカノニカルアンサンブルを元にして作られています。つまり、分配関数と大分配関数を使用します。場の量子論における基本的な方法は、演算子形式と経路積分の2つがありますが、ここでも同様にこの二つによって構成することが可能になっています。


定式化の方法としては、虚時間法(imaginary time formalism)、実時間法(real time formalism)、そして定着している日本語がなさそうな、thermo field dynamics(TFD)と呼ばれているものがあります。この3つは熱平衡状態に対しては同等の結果を与えることが分かっています。そして、唯一虚時間法だけが熱平衡状態以外扱えないという特徴を持っています(完全に非平衡系が扱えないというわけではないですが、余計な数学的構造を気にしなければいけない)。それに対して、残りの二つにはそんな制限はないんですが、扱いが数段複雑になるという特徴を持っています。その一番の理由は、伝播関数が4成分持つというとんでもない状況を発生させるということです。また、虚時間法と実時間法は同じ発想を元にしているんですが、TFDはこの二つとはかなり違った方法を用いて作られています。


有限温度の場の理論は統計力学なので、計算すべき量は熱力学的な量であり、それを求めることが出来る分配関数をどのように求めるのかというのが基本的な問題です。この計算方法が通常の場の理論と同じように摂動論を用いており、ファインマン則がほぼそのまま出てきますし、特に虚時間法なんかではほとんどの関係式が通常の場の理論と同じ形をしているということが起きます。ただ、あくまでも似ているという状況なだけで、計算している対象は違うことには注意すべきです。





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