イントロ




最初に注意を書いておきます。
まず、本によって伝播関数の定義が違うということです。大きく違っているわけではなく、単に虚数を含めるか含めないかとか符号が違うというものですが、これによって途中式の符号が違っている場合があります(例えば伝播関数の質量項)。
次に結合定数の符号がどうなっているのかです。QEDでは電荷が負であることを受けたりして、ラグランジアンの段階で符号をプラスにしている場合とマイナスにしている場合があります。これのせいで結果の符号が異なっている場合があります。
最後に、これは素粒子関係だけでならあまり起きないことですが、計量の定義が(+,-,-,-)なのか(-,+,+,+)なのかです。これでも符号がところどころ反転するので気をつける必要があります。宇宙論よりの人が書くと(-,+,+,+)で、素粒子よりだと(+,-,-,-)となっている場合が多いです。ただし、弦理論では(-,+,+,+)を使っていることが多いです。
他にも細かい定義をすっとばして書いてある場合がこれでもかというぐらいあるので気をつけたほうがいいです。

場の量子論は1929年にハイゼンベルグとパウリによって作られ、現在では主に物性、素粒子、原子核なんかで使われる理論です。ここでは素粒子物理での場の量子論について説明しています。素粒子は高エネルギー領域での現象を扱うので特殊相対性理論が必要になり、相対論的な場の量子論が使われます。

まずは大まかに場の単語の意味に触れておきます。
場は簡単に言えば、位置と時間を変数に持つ関数です。関数はスカラー、ベクトル、テンソルによって表されます。電場や磁場はベクトル場です。イメージとしては、「古典場から量子場への道:著 高橋康、表實」での、「さしあたり単に空間に分布している物理量であると定義しておこう。~中略~。3次元直交直線座標を考えた時、その空間の各点に1個ずつ勝手に数字を書き込み、それら数字全体の分布を考えた時、それがスカラー場。また、空間の各点に、1個ずつ矢を書き込む。これらの矢の分布を考えた時、それがベクトル場。その矢の長さが、その点における場の大きさであり、矢の方向が、その点における場の方向である。これらの矢が、あっちこっちで、にょきにょき長くなったり、短くなったり、方向を変えたりしていれば、それが時間に依存するベクトル場。そのにょきにょきの仕方を決めるのが場の運動方程式である」、というものです。
電磁気での場としてみます。力学では物体同士が接触することで力は伝わります。そして、電磁気では電荷と電荷は接触せずに力を及ぼします。この接触しないでも力が伝わるというのを説明するのが場(電場)です。もっとイメージしやすいのが、砂鉄の中に磁石をおいた時に、磁力線に従って砂鉄が動く現象で、砂鉄に作用している力が存在している空間が場(磁場)です。つまり、電磁場での場の概念は、空間にある目に見えないが離れた地点に力を及ぼすもの、ということです。
もっと広い範囲で使えそうな言い回しに変えるなら、空間に分布している何かしらの影響を持っているものを場としよう、となります。これを数学的に表すと、位置(それと時間)を変数に持つ関数となります。このように考えれば、「古典場から量子場への道」での記述がはっきりします。
そして、場の量子論での場は電磁場だけではないです。量子力学で出てくるように、粒子は確率に従っており、それは波動関数が担っています。つまり、波動関数は空間に分布している確率を表す場です。

場は電磁気の例からも分かるように相互作用を説明するために導入されたもので、自然界の基本的な力とされる電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用、重力は場の理論を使って説明されます。

上の話を踏まえて場の量子化について簡単に見ておきます。場の量子論では基本的に古典的なラグランジアンを構成するところから始まります。例えばシュレーディンガー方程式なら




これをオイラー・ラグランジュ方程式に入れることでシュレーディンガー方程式になります。このとき波動関数ψを場と見なします。そして、ψを場の量子化という手続きによって演算子化することで量子論に移されます。場の量子化は、電磁場の量子化で説明したほうがわかりやすいので電磁場でまずは簡単に言います。

電磁場は波であり、古典的である限り量子力学で最初に説明される光は粒子性と波動性を持つということの波動性の部分しか出てきていません。その粒子性を取りだすのが場の量子化です。つまり、波である電磁場の量子化で粒子性を取り出せるということです。

このことを電子等の粒子に対しても行います。古典的には電子は粒子としてしか解釈されてなく、これが量子力学にいくと波動性を持ちます。この波動性を表現するのが波動関数であり、確率の波です。波動関数を場と捉えれば、波動関数は電磁場と同じ位置にいると考えられ、古典場と言えます。そうすると、波である電磁場を量子化することで粒子性が取り出せるように、この確率の波としての場を量子化することで粒子性が現れてきます。これが波動関数を場と見なし量子化する理由で、場の量子化まで行くことで波動性と粒子性の二つを描くことが出来、量子論的な粒子の生成・消滅という性質を含ませることが出来ます。

場の量子化の手続きは、正準量子化をそのまま場に対して行ったものなので、量子力学と解析力学を知っていれば技術的に困ることなく先に進んで行けます。また、量子力学でもそうだったように、正準量子化だけでなく、経路積分による量子化も行えます。2つの方法は同等ですが、物理を教えてくれるのは正準量子化の方で、経路積分は主に計算方法として使われています。

相互作用にも簡単に触れておきます。場の量子論で使われる相互作用は場を媒介とする近接作用で、微小に離れた粒子間で働く力を考えます。
相対論の観点から近接作用である必要性が出てきます。例えば、古典力学での力の伝わり方は遠隔作用と呼ばれる離れた粒子に直接力が作用することを許しています。しかし、この考えは、力が瞬間的に相手に作用するという立場を取るために、光速を超えて伝わることを許し、相対論の因果律を破ります。こういった点から場を媒介する近接作用の立場をとる必要性が出てきます。

場を量子化すると粒子性が出てくると言ったように、相互作用は媒介粒子によって記述され、それは電磁相互作用では光子、弱い相互作用ではW,Zボソン、強い相互作用ではグルーオン、重力は重力子です(重力子は実験的に全く確認されていません。また、グルーオンもグルーボールと呼ばれる状態でなら実験的に見つけられると予想されているだけの状況です)。そして、重力を除く相互作用はゲージ場の量子論によって記述され、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用は標準模型として記述されています。

場の量子論について大雑把に説明してきましたが、場の量子論は未完成の理論です。場の量子化という手続き自体がなんだか知らないがこうやったら上手くいったという雰囲気で導入されたものであって、場の量子化によって粒子性が出てくるという理由さえ明確に説明することができません(ただし、粒子性をもとにして定式化していくと場の量子化が要求される)。物理としては実験と一致してればそれでいいという立場を取れますが、理論をしっかりと作ろうとする数学や数理物理の立場では真剣に考える必要があります。中には賞金が掛かっている問題(ミレニアム賞問題)もあって、Yang−Mills and Mass Gapというのです(詳細は ここ のAWARDS→Millennium problemsで行けます)。



戻る